東京高等裁判所 昭和56年(ラ)305号 決定 1981年5月22日
抗告人
内田元子
主文
本件抗告を却下する。
理由
職権をもつて、抗告人が抗告権を有するかどうかについて考える。
本件競売手続は、抵当権の実行によるものであり、入札払が実施されたものであるところ、右競売手続において、競落許可決定に対し即時抗告をすることができる者は、民事執行法附則第二条による廃止前の競売法第二七条第四項、同法第三四条、第三二条第二項により準用される前記附則第三条による改正前の民事訴訟法第六八〇条第一、二項に定める利害関係人、競落人、入札人に限られる。
本件記録によれば、抗告人は、右競売法第二七条第四項第一、二号、第五号の利害関係人、競落人、入札人に該当しないことは明らかである。問題となるのは、抗告人が、本件競落にかかる建物二棟の転借入として、競売法第二七条第四項第三、四号の「不動産上ノ権利者」に該当するかどうかである。
そこで案ずるに、本件記録によれば、本件抵当権は、昭和五五年二月一二日その設定登記を経由したものであるが、記録中の賃貸借取調報告書には、本件競落にかかる建物二棟は、件外大庭建装株式会社が、昭和五二年五月一三日所有者パシフィック警備保障株式会社から、期間を三年と定めて(その後更新された。)賃借して入居し(なお、右賃貸借の契約書が添付されている。)、同日抗告人が、右件外会社から、右建物二棟を期間の定めなく転借し引渡を受けた旨の記載があり、昭和五六年二月二七日付の入札及び競落期日公告には、右賃貸借及び転貸借が掲げられていること、右賃貸借及び転貸借については、登記が経由されていないことが認められる。しかし、前記競売法第二七条第四項各号は、利害関係人となるべきものを限定的に列挙したものと解すべきであり、同項第三、四号の利害関係人は、その「不動産上ノ権利者」とある文理上、所有権者その他の物権者を指すものと解すべきであり、賃借権者のごとく債権を有するに過ぎない者は、競売申立人その他の第三者に対抗し得ると否とを問わず、これに含まれないというべきである(東京高等裁判所昭和三一年(ラ)第五〇五号、同年七月一八日決定、下級裁判所民事裁判例集七巻七号一九五三頁参照)。そして、このことは、当該賃借権者において、競売手続が実行されるにつき実質上如何なる利害関係を有するかということとは関わりのないことである。
そうすると、抗告人は、前記競売法第二七条第四項第三、四号の利害関係人にも該当しない。
よつて、本件抗告は、抗告権を有しない者によつて申し立てられた不適法なものであるから、これを却下すべきものとし、主文のとおり決定する。
(杉田洋一 中村修三 松岡登)